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ラストを削るということPart2

BLラストを削ることがいかに靴づくりのキモかというエピソードを2つ紹介します。
ひとつめは、昔からオーダーメードでは定評のある東京の靴屋さんでのお話。
かなり重症の足の障害(この場合極度の外反拇指)を持つお客様が靴を作られました。紙の上で足型を取り、採寸も入念に行い数カ月後には立派な靴が出来上がりました。
あまりのピッタリさにお客様は大満足。支払いを済ませて、このまま履いて帰りたいと店を出たのですが、駅まで辿り着くこともままならずに引き返してきました。「痛くてこんな靴は履いていられない」とのことです。修正を加えて作り直すこと数回、それに対する答えはすべて「N0!」でした。悩みに悩んだ末、店主は仮説をたてました。『変型した現在の足型に合わせるのではなく、本来の健康な足であったと仮定した足型で靴を作る』ということ。もう一度、お客様の足型をひっぱり出し、曲った指を真直ぐ伸びた足型に書き直し、ラストを作り直したのです。その仮説は見事あたりました。最後に出来上がった靴はお客様の足にぴったりとは行かなかったのですが、いくら履いても足は痛くならない、お客様にとっては手放せない1足に仕上がったのでした。その後、この店主は、『足とは何か?靴とは何か?』を問い続け、在庫になっていた『足には悪そうな靴やラスト』を全て処分し、新しい靴屋として再スタートを切ることになりました。

ARA2ふたつめは今から5年程前のお話です。
 ある会社にお邪魔したところ、海外のラストメーカーで長く研修を積んでこられた、ラストメイキング(特にコンフォートラスト)のスペシャリストがスタッフの一人として、いらっしゃるということでした。
その道を極めた人との偶然の出会いに、早速面談を申し込み、『究極のラストとは何ぞや』という質問をぶつけてみたのです。
 曰く「お客様の要望に応え、どんなものでも削る」とのことでした。
その返答に私はがっかりしました。もう少しまともな答を期待していた私にとって、ラストメイクになんら思想も哲学も持たないダメなやつと思えたからでした。
 しかし、当社がその後、新しい靴を開発しようとする試みの度々に、その人の言葉に隠された含蓄に気付かされるのことになります。機能性を優先させれば美的な感性に妥協が生まれ、少しでも美的要素を加えると機能性が大いに損なわれることの連続。人の足は十人十色、百人百色という現実が重くのしかかって来るのです。
お客様の要望を聞きながら、その要望に真摯に応えようとするその道に
「極まったラストなど存在しない。ラスト道とは長く長く、そして曲がりくねって険しい道」と云いたかったのだろうと思えるようになってきたのです。
良い靴を作る為の良いラスト作り、ラストを削ることに終わりはないと思えるのです。

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